名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)1037号 判決 1988年3月16日
反訴原告
伊藤弘平
反訴被告
杉野剛男
ほか一名
主文
一 反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金一二二万九八六〇円及びこれに対する昭和六一年一一月一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を反訴原告の、その余を反訴被告らの各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 反訴請求の趣旨
1 反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して金四六五万円及び昭和六一年一一月一日以降別紙目録記載建物の改築改装工事着工まで一か月金七〇万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
二 反訴請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 反訴請求原因
1 事故の発生
昭和六一年九月一〇日午後九時二五分ころ、名古屋市熱田区大宝四丁目九一七番地において、反訴被告竹永篤志(以下「反訴被告竹永」という。)運転の普通貨物自動車(以下「加害車両」という。)が同所所在の反訴原告所有の別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に突つ込み、本件建物のうちの店舗部分を損壊した(以下「本件事故」という。)。
2 責任原因
(一) 反訴被告竹永は、過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。
(二) 反訴被告杉野剛男(以下「反訴被告杉野」という。)は、反訴被告竹永の使用者であり、本件事故は反訴被告杉野の事業執行中に発生したものであるから、民法七一五条により損害賠償責任を負う。
3 店舗部分損壊による損害
反訴原告は、昭和三五年に本件建物を建築し、所有しているが、本件建物の店舗部分は、本件事故により木部結合部分の殆どが外れるなど修理不能の状態(全損状態)となり、軽量鉄骨による改築を行うとすると少なくとも五六五万円の工事費用を要するので、同額の損害が生じた。
なお、反訴原告は、反訴被告らから損害賠償の内金として一〇〇万円を受領した。
4 工事遅延による損害
反訴原告は、本件建物の改築改装工事を行い、マンシヨン及び店舗を建築する予定であつたところ、本件事故により店舗部分が損壊され、反訴被告らが損害の賠償をせずに放置しているため、昭和六一年一一月一日に反訴原告が工事着工準備を完了したにもかかわらず工事着工が遅延し、次のとおり一か月七〇万二〇〇〇円の割合による損害が生じている。
(一) マンシヨン部分の賃料収益 一か月二五万二〇〇〇円
(一戸あたり三万六〇〇〇円、七戸分)
(二) 店舗部分の収益 一か月四五万円
よつて、反訴原告は、反訴被告らに対し、連帯して前記四六五万円及び右昭和六一年一一月一日以降別紙目録記載建物の改築改装工事着工まで一か月七〇万二〇〇〇円の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 反訴請求原因に対する認否
1 反訴請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の主張は争う。本件建物の店舗部分の修理は可能であり、次に述べるとおり損害額は一三八万九七八〇円とみるべきである。
すなわち、本件建物は、昭和三五年六月末ころに建てられたもので老朽化しており、昭和五五年以降は無人の空家であつた。そして、本件建物の店舗部分の修理費用見積額は二三五万六〇〇〇円であるところ、本件建物の耐用年数は多目に見て四二年であり、本件事故時までの二六年間の経年減価率は四九・四パーセント(一年あたり一・九パーセント)となるから、本件事故時における店舗部分の残存現価は五〇・五パーセントにあたる一一八万九七八〇円である。これにブロツク塀の修理費二〇万円を加算しても、損害額は合計一三八万九七八〇円を上回ることはない。
なお、反訴原告が反訴被告らから損害賠償の内金として一〇〇万円を受領したことは認める。
4 同4の損害は争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 反訴請求原因1(事故の発生)及び同2(責任原因)の各事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、損害について判断する。
1 店舗部分損壊による損害
(一) 成立に争いのない乙第二号証、証人遠藤一郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第九号証の一ないし七及び同証言によれば、以下の事実を認めることができ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
(1) 本件建物に付された損害保険の保険会社から損害調査を依頼された尾張損害鑑定調査事務所の保険調査員遠藤一郎は、昭和六一年九月一一日、一二日及び一六日の三回現地に赴き、本件事故により損壊された店舗部分の状況を確認したが、店舗部分の損壊は一階のみであり、梁及び支柱が折れておらず、柱を差し替えて内壁の修理をすれば修復は可能であると判断し、店舗部分の修理費の見積額を二三五万六〇〇〇円、他に損壊されたブロツク塀部分の修理費二〇万円を加算して、損害額を合計二五五万六〇〇〇円とする調査報告書を同月二九日作成した。
(2) 右遠藤一郎は、右調査報告書には記載していないが、以上の損害のほかに、加害車両が飛び込んだ外壁部分の下地のモルタルの埋め込み修理費として一五万円を要すると判断した。
(二) 反訴原告は、本件建物の店舗部分は、本件事故により木部結合部分の殆どが外れるなど修理不能の状態となつた旨主張し、乙第一号証、第三号証及び第四号証を提出しているが、前掲乙第二号証の記載及び証人遠藤一郎の、柱を差し替えても屋根の部分とうまく接合できないということはない旨の証言に照らすと、反訴原告主張の事実を認めるに足りる証拠はないといわざるをえない。
(三) 反訴被告らは、本件建物の耐用年数及び経過年数(減価率一年あたり一・九パーセント)を考慮すると、修理見積額二三五万六〇〇〇円の五〇・五パーセントにあたる一一八万九七八〇円が店舗部分の損害である旨主張するので、この点について判断する。
なるほど、成立に争いのない乙第三号証によれば、本件建物は昭和三五年六月ころに建築されたもので、本件事故時までに二六年を経過していることが認められる。しかし、他方、証人遠藤一郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件建物の店舗部分につき前記修理見積額による修理を施した場合、耐用年数は一〇年は延長されることが認められるから、控え目に見て、その一〇年分については不当利得になると認めうるとしても、反訴被告ら主張のように二六年分について経年減価率に基づき減額することは相当ではない。
したがつて、前記修理見積額のうち、反訴被告ら主張の減価率である一年あたり一・九パーセント、一〇年分一九パーセントについて、反訴原告は、耐用年数が延長されることにより不当利得することになるので、この部分は損害額から損益相殺すべきである。
(四) 以上によれば、店舗部分の損害額は、次の計算式のとおり二〇二万九八六〇円となる。
(2,356,000+150,000)×(1-0.19)=2,029,860
(五) 右金額に反訴被告らが本件事故による損害と自認する前記(一)(1)のブロツク塀修理費二〇万円を加算すると、合計二二二万九八六〇円となる。
2 工事遅延による損害
反訴原告は、本件事故前から本件建物の改築改装工事を準備していたところ、本件事故により店舗部分を損壊され、反訴被告らが賠償に応じないため工事着工が遅延した旨主張するので、この点について判断する。
成立に争いのない乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、本件建物について、昭和五五年一月ころ居住者を立退かせ、同年五月ころ株式会社名伸建設と請負契約を締結し、改築改装工事に着工しようとしたが、建物敷地の約半分が名古屋市の道路拡張で買収される計画が出たこと等の理由で工事を中止していたこと、その後道路用地買収が延期になつたため、反訴原告は、昭和六一年七月ころから工事着工の準備をすすめていたことが認められる。
しかし、他方、証人遠藤一郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、遠藤一郎の損害調査は同年九月末までには終了し、同年一〇月末日までには反訴被告らにおいて修理見積額を前提とする損害賠償の用意があつたのに、反訴原告は、修理不能であると主張し、店舗全部を解体して建て替える費用として五六五万円以上の損害賠償を要求して譲らず、工事に着手しなかつたことが認められる。
以上の事実と、前示のとおり店舗部分が修理不能であると認めるに足りる証拠はないことを合わせ考えると、結局、本件事故と反訴原告主張の工事遅延との間に相当因果関係を認めることはできないから、反訴原告の主張を採用することはできない。
3 反訴原告が反訴被告らから本件事故による損害賠償の内金として一〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがないから、前記1(五)の二二二万九八六〇円から右金額を控除すると、残額は一二二万九八六〇円となる。
三 結論
以上の次第で、反訴原告の請求は、反訴被告らに対し、本件事故による損害賠償として、各自一二二万九八六〇円及びこれに対する事故後である昭和六一年一一月一日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 芝田俊文)
目録
名古屋市熱田区大宝四丁目九一七番地
家屋番号 九一七番
種類 店舗兼共同住宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積 一階 二一八・一八平方メートル
二階 二一八・一八平方メートル